研修会時の質問【令和6年1月13日分】
【講義名】梅毒検査を実施するうえで知っておきたいポイント
【回答者】石井 葵 先生(積水メディカル株式会社)
頂いたご質問に対する回答は、弊社製品「メディエースTPLA」「メディエースRPR」に関する知見に基づいたものです。ご了承のほど、よろしくお願いいたします。
Q1. PCRは保健所しかできないと聞いたのですが、臨床症状だけで活動性梅毒と判定する医師はいらっしゃるのでしょうか
A1. いらっしゃらないと思います。梅毒は「偽装の達人」といわれるほど様々な症状を呈しますので、検査値による確認が必要です。また初回の検査値(定量値)がないと、投薬後の治療判定が困難になりますので、臨床症状と検査結果で診断するよう性感染症診断・治療ガイドライン2020に記載されています。(スライドNo.10をご参照ください)PCR検査は現時点(2024年1月13日時点)で保険点数が未収載であり、操作も煩雑であることから、国立感染研や大学病院など一部研究機関での活用に限られています。
活動性梅毒の診断基準は、性感染症診断・治療ガイドライン2020(スライドNo.9)に従い、臨床診断だけでなく、検査値とその推移で判定されます。
【症状がある場合】①TP-PCR陽性、もしくは②TP抗体、RPRが陽性であり、病歴と検査値の推移から活動性と判断されるもの
【症状がない場合】TP抗体陽性で病歴と検査値の推移から潜伏梅毒と判断されるもの
Q2. TP抗体試薬は、定性のものを使っています。(+,数値で結果が出てきます)治療効果判定で使ったとき、定量で保険点数の申請をしていいのでしょうか
A2. 保険点数の申請が可能かは、キットの薬事申請時の届け出区分によります。よって、メーカーにお問い合わせいただければ幸いです。
Q3. アモキシシリンの内服とステイルズ筋注はBCP改良法による血中アルブミン測定において負誤差の原因となるでしょうか
A3. 原理的に、BCP改良法では、ペニシリン大量投与時にALBの偽低値が生じます。1日2,400万単位(1,800~3,000万単位)のペニシリンGを6回に分けて投与し、4週間治療した患者様での症例で、BCG法とBCP改良法では、3.4g/dLが1.7g/dLとなったと報告されています(栢森裕三,
他 薬物による検査値の変動 3.生化学・免疫検査.Medical Technology(2009) vol.37 no.8 p818-822)。また、弊社のBCP改良法は10万単位で10%程度低値化することを確認しています。内服時には、血中濃度が急激に上昇することは少ないため影響は低いかと思われますが、ステルイズ筋注では(調べました)、最高血漿中濃度到達が48時間、約259ng/mLに達します。半減期は188.8時間、目標有効濃度(18ng/mL)以上を維持した期間の中央値が約23日(範囲:18~25日)となっています。検査値への影響に関しては添付文書への記載はなく、どのくらいの影響が出るかについては現時点では不明ですが、上記の情報もご参考にALB値を見て頂ければ幸いです。
Q4. 脂質抗体検査とTP抗体検査の順番についてですが、メーカーからの推奨はありますか
A4. スクリーニング検査としては、コストや特異性を勘案していずれか1法で実施されているご施設が多いですが、昨今の梅毒の流行を鑑みますと、できる限り同時測定をお勧めします。まずはどちらかというのであれば、個人的にはTP抗体を先に測定することをお勧めいたします。梅毒に対する特異性が高く、メディエースの場合、初期梅毒に対する感度が良好であるためです。必ず症状や問診で病歴等を確認いただくようお願いいたします。
Q5. 活動性梅毒に関してですが、ガイドラインではRPRでの届出となっていましたが、現在、TP抗体が先行して陽性となる場合もあることからRPR陰性またはRPRの値が低値でも活動性梅毒と疑わしい場合には届出が必要と解釈し医師へ説明した方が良いのでしょうか。積水さんにも連絡が行くと仰っていましたが、どのような問い合わせでしょうか
A5. 活動性梅毒(要治療の対象)の結果と届出の条件は、すべて一致はしていません。
弊社にも「活動性梅毒の対象の確認」「届け出の対象の確認」のお問い合わせを多数受けています。
現状は活動性梅毒の一部が、統計上届出に必要な対象となっておりますので、再度スライドのNo.9、11を比較してご確認ください。
活動性梅毒(要治療例)でも以下の場合は届出不要です。(でも治療は必要です)
・症状がある場合でも、RPRとTP抗体がいずれも陽性でない場合
・症状がない場合、RPRが16倍相当未満の場合
(届け出ても「該当しない」と除外されます)
Q6. 神経梅毒が疑われる場合に、髄液でTP抗体やRPRの検査を行いますが一般的なのでしょうか。保険請求は血清・髄液のどちらもできるのでしょうか
A6.「髄液」は現在国内で販売されている体外診断薬では保険請求できるものはありません。残念ながらメディエースも髄液の測定での保険請求は現在できません。なお、日本には神経梅毒の明確な診断基準はありません。
CDCの診断基準では確定診断としては、①神経梅毒に一致する症状がみられる、②髄液VDRL陽性、③髄液の細胞数が5-10mm3以上、④タンパクが45mg/dL以上です。日本ではこれを参照に、①、②髄液VDRLを髄液RPR陽性と読み替え、および③で運用されているご施設があります。
Q7. 通常血清と髄液をダブルで検査を行うのですが、① 血清の方が高値という検査結果が臨床的に正常でしょうか。② 治療効果判定のためにはどこまでも希釈を行い、数値で報告することが重要とお考えでしょうか。それとも施設で話し合って不等号での結果報告もありとお考えでしょうか。
A7.① これまで確認した例では血清>髄液の場合が多いですが、定性値での報告も多く、すべてそうとは断定できません。また髄液中のRPR、TP抗体の由来は不明です。② 不等号での結果報告では測定値の変動がわかりませんので、定量値での報告をお願いします。
また高齢の方で陳旧梅毒か、活動性梅毒かを見極めるにも、期間を空けての測定値の比較が必要ですので、不等号での報告では区別がつきません。あらかじめ高値とわかっている方は、希釈を高倍率から始めるなどしてご負担を減らしていただければと思います。
Q8. 血清や髄液以外にも、TP抗体やRPRの測定ができる検査材料はありますでしょうか
A8. 血漿も可能です。(メディエースは血漿・血清で測定できます。)
Q9. RPR(+),TP(-)のときFTA-ABS(-)であれば梅毒は否定してもいいのでしょうか
A9. RPRが偽陽性やBFPの可能性があるか、患者背景を確認してください。また、まれにRPRが先行して陽性化する場合もありますので、感染の機会があったり、症状があり疑わしいような場合には、再度期間をおいてご測定ください。
Q10. 非特異的反応などの確認や、治療効果の経過を見ていく中で、前回値をチェックする上で、どのくらいの期間を目安に確認する必要があるでしょうか
A10. 治療前や治療中は、2週間から4週間の期間をおいて再測定することが推奨されています。治療後のフォロー期間は議論の分かれるところですが、4週間おきに1年とされるご施設がありました。
Q11. RPR(+),TP(-)でRPR陽性が梅毒によるものかBFPによるものかを判別するために医師へすすめるべき追加検査があれば教えてください。
A11. RPRのBFPや非特異に関しては、測定原理の異なるカード法でご確認ください。TP抗体も使用抗原や測定原理による違いがありますので、FTA-Abs法など他法でご確認ください。