研修会時の質問【令和4年7月9日 開催分】

【講義名】苦手克服!臨床検査技師が知っておくべき血液ガス分析!

【回答者】濱田 宏輝 先生 (シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社)

Q1:静脈血の血ガスは気泡混入しやすいですが、そのまま提出された場合はやはり再採血が必要でしょうか?

A1:気泡混入のしやすさは血管の部位や動脈血/静脈血に起因するものではなく、ルートとの接続の甘さや採血時の陰圧の強さに起因します。ご質問では静脈血との事ですので、酸塩基平衡の把握が目的であれば速やかにエア抜きをして測定頂ければ問題ないかと考えます。また動脈血の場合でも採血者が直後にエア抜きをすることが原則ですが、採血後速やかに検査室にご提出された検体でもしっかりとエア抜きをしてから測定していただければ問題ないかと思います


Q2:当院では血液ガスの測定は全て医師に任せ技師は装置の管理のみを行なっています。そこで装置に関する質問なのですが、生化学分析装置と比べて血液ガス装置は分刻みで校正が入りますが、そんなにデリケートな装置なのでしょうか?
その割にはメーカー指定の精度管理幅は広いような気がします。当院ではISOを取得しているため、他の生化学分析装置同様に、メーカーの精度管理幅では無く、実測した当院独自の管理幅で管理しています。血液ガス装置はそこまでしなくてもメーカー管理幅で十分精度が保たれているのでしょうか?そのような管理をしている施設をご存知であれば管理方法を教えてください

A2:血液ガス分析装置は生化学分析装置と比べ全血を用いて検査を実施するため、電極部や流体系の汚れや詰まりなど様々な要因によって測定感度が変化する恐れがある為、定期的なキャリブレーションは必須となります。また、血液ガスに用いる精度管理溶液はいわゆる管理血清のような標準物質ではなく、色素入りの水溶性コントロールの為、中心値については機種間差が生じます。この機種ごとに異なる中心値の変化の有無を定期的なコントロール測定の結果をご確認頂く事によって、装置の精度が保たれているかを確認頂いております。従いまして、ほとんどの装置の測定結果が入る管理幅をメーカー推奨値として設定している為、管理幅が広めになっております。
弊社としましては、コントロール測定時の各レベルの平均値が管理幅に入っていれば機器の運用上問題ないと考えており、多くのご施設でこの方法を採用頂いております。
また、施設独自に管理幅を設けているご施設もございます。ただ、コントロールのロットによって中心値が若干上下致しますので独自の管理幅を設ける場合は、ロット変更後に中心値を確認頂いた上で設定頂いた管理幅を当てはめてご確認頂ければと考えております。


Q3:分かりやすいお話ありがとうございました。初歩的な質問で申し訳ありません。生化学で測った電解質とガス電解質のデータ解離について教えてください、特にカリウムについて。

A3:電解質の測定法は、血液ガス(直接法)に対して生化学(間接法)であり、直接法では全血のまま測定するのに対し、間接法で希釈後に測定することになります。高TG検体や高蛋白の検体では容積置換の影響で間接法(特にNa+とCl―)が偽低値になります。K+に関しても原理上影響がないとは言えませんが、体内での比率が低いため数字には表れにくいと考えられます。また、生化学では血漿(or血清)測定のため溶血時には確認可能ですが、血液ガスでは全血のため確認ができません。K+値が血液ガスと生化学で不一致の場合は血液ガス検体を遠心分離の上、溶血の有無をご確認いただくのも一つの手段となります。


Q4:小児科(血液疾患あり)で静脈血液ガスがよく提出されますが、医師はどのデータに着目しているのでしょうか?同時に生化学検体も提出されます。
わかる範囲で良いので、ご教授頂けますと幸いです。

A4:静脈血で血液ガス分析をみる意義は以下のようなことが考えられます。
● 酸塩基平衡の確認(pH、HCO3―値は動脈血値との相関〇)
● Hb値が知りたい
● 血糖値・電解質が知りたい
● ビリルビン値が知りたい
あくまでも頂いた情報からの推察になりますが、小児科ということですので、この中でも特に貧血の有無や程度、低血糖や高K血症、高Bil血症などが、医師が着目されている点ではないかと推察します。また血液疾患も含まれるということですのでWBC数が高い患児もおられると思いますが、この際はWBC自体が代謝で産生するCO2により採血後PaCO2値が上昇する場合がありますので、ご注意頂ければと思います。


Q5:血算と血液ガスでHbが異なっていたのですが、混和不足以外何が考えられますか。

A5:血算装置と血液ガス分析装置では、測定法が異なる場合があります。血算ではシアンメトヘモグロビン法、SLS-Hb法、COオキシメトリー法などメーカーによって異なる測定原理があり、血液ガス分析装置ではCOオキシメトリー法が使われています。血算装置による測定では全血を溶血させ、Hbをオキシ化またはメト化(両方ともFe2+→Fe3+)の反応で1吸収波長から濃度を計算します。しかしこの際、MetHbやCOHbはFe2+に転換できないためこれらの分画割合が高い場合にはCOオキシメトリー法で全分画を測定できる方法より低値となります。よって、異常ヘモグロビンが含まれる場合「血液ガス≧CBC」となる傾向があります。


Q6:CO2ナルコーシスについて、どのような病態か教えて欲しいです。

A6:ヒトはさまざまな物質の変化をもとに、呼吸運動の刺激を発生させています。そのなかでも体内のCO2の変化が主な呼吸刺激として働いており、体内のCO2が上昇すれば換気(=呼吸回数)を増やし、減少すれば換気を減らすようになっています。一方で、病的状態(COPDなど)により慢性的にCO2が貯留している場合では、CO2貯留に“慣れ”が生じて呼吸刺激としての役割が低下しており、代わりに低酸素血症が呼吸刺激となっています。このような患者に不用意に酸素投与を行うと、低酸素血症による呼吸刺激がなくなり、CO2による呼吸刺激も低下したままのため著しい呼吸抑制が起こります。 その結果、CO2のさらなる貯留をきたし、CO2自体が麻酔作用などを持つため、蓄積したCO2が中枢神経系に作用して意識障害に至ります。このように、さまざまな要因で異常に蓄積したCO2による中枢神経抑制作用がさらに呼吸抑制を引き起こし、よりいっそうCO2蓄積を招く悪循環に陥って、昏睡状態から死亡に至る危険もある病態が、CO2ナルコーシスです。


Q7:他府県からの参加を受け入れてくださりありがとうございました。たまに静脈血での血液ガス測定の依頼があるのですが、意義がわかりません。基準値がわからないのでもしわかれば教えていただけますでしょうか。

A7:静脈血で血液ガス分析をみる意義は以下のようなことが考えられます。
● 酸塩基平衡の確認(pH、HCO3―値は動脈血値との相関〇)
● Hb値が知りたい
● 血糖値・電解質が知りたい
もともと動脈ラインが留置されている患者様でなければ、動脈血を穿刺して採取するというのは侵襲度の高い医療行為ですので、できるだけ侵襲を抑えた静脈血で上記のような項目が確認できれば、臨床的意義は高いと考えられます。また静脈血液ガスでの基準値というのは現在のところ存在しません。スライド内でお示ししたような換算方法である程度予測するしかないというのが現状になります

2022年07月16日