研修会時の質問【令和4年10月22日 開催分①】

【講義名】血清ビリルビン分画定量測定の有用性 -抱合型ビリルビン測定の臨床的意義について学ぶ-
【回答者】平野 佑樹 先生 (株式会社LSIメディエンス 学術グループ)

 

Q1:δビリルビンを測りこまないDB試薬では間接ビリルビンは算出できませんか?


A1:「間接ビリルビン」はジアゾ法(もしくはジアゾ法準拠)で得られたD-BIL値から算出するため、T-BIL値とδビリルビンを測り込まない方法のD-BIL値の差に「間接ビリルビン」という名称を使うことはできません(T-BIL値-δビリルビンを測り込まないD-BIL値=非抱合型ビリルビン+δビリルビン)。ただ、T-BIL値とD-BIL値の差を見る点は変わらず、例えば、溶血性貧血の疑いがありT-BILが高値、δビリルビンを測り込まないD-BIL値が基準範囲内の場合は非抱合型ビリルビンが上昇していると推定できます(δビリルビンは抱合型ビリルビンから生成されるため、本例でδビリルビンが上昇している可能性は極めて低いと考えられます)。

なお、小児科学会と小児栄養消化器肝臓学会は間接ビリルビンが算出できない点は臨床上問題ないとの見解を示しています。



Q2:δビリルビンを測りこまないDB試薬は肝移植適応ガイドラインのスコアリングシステムは使用できますか?


A2:現スコアリングシステムでD-BIL/T-BIL比が用いられていますが、δビリルビンの反応性については言及されていません。そのため、消化器病学会と肝臓学会はこのD-BIL/T-BIL比の意義を修正する必要があるとの見解を示しています。
2022年10月医療検査科学会における大阪大学医学部附属病院の発表にて、生体肝移植例1例にて特異的酵素法D-BILとバナジン酸酸化法D-BILで比較した結果、スコアリングへの影響は小さいものの移植後の病態評価はδビリルビンへの反応性が低いD-BIL/T-BIL比が有用であったと報告されました。



Q3:δビリルビンを測りこまないDB試薬は共用基準範囲を適応できますか?


A3:D-BILは現状の共用基準範囲では設定されていません。その理由として、試薬によって抱合型ビリルビン以外への反応性が異なり一つに統一するのが困難であるためと推測されます。なお、T-BILは試薬間差が少ないため共用基準範囲が設定されています。



Q4:グルクロン酸抱合とタウリン抱合で反応性の違いはありますか?


A4:グルクロン酸抱合の抱合型ビリルビンは安定性等の課題で試料がないため、タウリン抱合のもの(ジタウロビリルビン)との比較が困難であるのが現状です。また、ジタウロビリルビンは生体成分ではないため生体材料の反応性を必ずしも反映しないとの報告もありますが、グルクロン酸抱合の抱合型ビリルビンと同様に水溶性のため、代用として現在世界的に用いられています。



Q5:LSIの試薬では参考基準範囲が低くなるとのことですが実際試薬を変更した病院での臨床からの問い合わせはいかがだったでしょうか。


A5:当社試薬へ切り替えていただいたほとんどのご施設で、切り替え前に各診療科への現行試薬と当社試薬の相関図等を示した院内案内等で周知いただくため、ご採用後のお問い合わせはほとんどございません。ご施設によっては移行期間を設けて数値に慣れていただく、ご施設の健常検体で現行試薬との差をご確認いただく等でご対応されることも想定されます。また、治験でD-BILを測定しているご施設はタイミングを考慮いただいた上で切り替える必要があると考えられます。なお、T-BILは試薬間差が少ないため切り替え後の数値は現行試薬と同程度です。

2022年10月24日